1963年
(100)面MOSFETならびにB-T処理技術 発明(日立)
〜個別半導体・他〜


1960年にBTLのKahng & Atallaが初めて動作に成功した当時のMOSFETは、特性が不安定で実用性に乏しかった。不安定動作は主に、酸化膜及び酸化膜・シリコン結晶界面に存在する各種電荷に起因していた。電荷の主なものは、酸化膜の構造欠陥に起因する固定電荷、酸化膜-シリコン界面の欠陥に由来する界面準位(surface state)並びにナトリウム、カリウム、水素などの可動イオンである。

このうち可動イオンは、電界によって酸化膜中を移動するため不安定動作の大きな要因になっていた。

1963年に日立の大野らは、MOSFETのゲートに負電圧、ソース・ドレインに正電圧を印加して、200-350℃で加熱後冷却することで、可動イオンをゲート電極に引き寄せ、固定できることを発見し、これをFC(Field Cooling)処理と名づけて特許出願した。(特公昭41-3418) 1964年にIBMのD. Kerrが同じ操作をB-T処理(Bias-Temperature Treatment)と名づけて発表し、これの名前が一般化した。 

可動イオンの影響を取り除いた結果、酸化膜-シリコン界面の固定電荷、界面準位の結晶面方位依存性が測定でき、それまで主に使われていた(111)面よりも(100)面の方がMOSFETに適していることを実証し、特許出願した。(特公昭42-21446) 有名な(100)面特許である。


表1 特許明細書に掲載されたMOSFETの特性比較(2)
   結晶面の異なるSi基板にMOSFETを作製し比較している。
   基板:p型(比抵抗100Ω・cm)
   酸化膜厚: 150nm
   ゲート長: 7μm
   表面ドナー(ND)(固定電荷と界面準位)が(100)面が最も少ない。したがって、表面反転電圧(VGO)も低い。電子移動度(μd)にも界面依存が見られ、(100)面の優位性を示している。

【参考文献】
(1) 特公昭41-3418、“半導体装置の製造方法”
(2) 特公昭42-21446、“半導体装置”
(3) 大野 稔、“開発秘話 シリコンメサトランジスタから(100)結晶面特許へ”、SEMI News, Vol. 24, No.5, pp.24-25, (Sept.-Oct. 2008)
http://www.semi.org/jp/sites/semi.org/files/docs/Kaihatsuhiwa_2008%235_Hitachi.pdf

【移動ページ】
個別半導体他/該当年代へ

【最終変更バージョン】
rev.001 2015/7/6