1997年

世界で初めて有機ELフラットパネルディスプレイを商品化
(パイオニア)

〜個別半導体・他〜


1987年に、イーストマン・コダックが、10V以下の低電圧で、1,000cd/m²以上の高輝度、高効率の有機EL実現の可能性を示した(1)。有機ELディスプレイは、自発光で視野角が広く、コントラストが高く、応答速度が速いなどの特徴を有し、しかも構造的に薄型で次世代ディスプレイとして有望である。イーストマン・コダックの発表を契機に、有機ELフラットパネルディスプレイの開発が盛んになった。

有機EL素子の構造は、図1に示すように、有機薄膜を電極で挟んだサンドイッチ構造で、光を取り出す必要から少なくとも一方の電極はインジウム−スズ酸化物(ITO)のような透明電極が使用される。動作機構はキャリヤ注入型で、陰極、陽極から電子、ホールが有機発光層に注入され、再結合することにより発光する。

イーストマン・コダックは、電子輸送性のAlq3 (Tris (8-hydrooxyquinolin) aluminium)を発光層として用い、この発光層と陽極間にホール輸送層と呼ばれるジアミン誘導体(TPD)層を挿入した。キャリヤが有機層内に閉じ込められ、再結合効率が高まり、有機層の膜厚を100nmと極めて薄くすることで、低電圧を実現した。

パイオニアは、陽極側からITO/MTDATA/TPD/キナクリドンドープAlq/Alq/Li:ALの四層構造に発展させた。発光層は0.2-0.5%のキナクリドンを発光中心としてAlqにドープしている。ITOとホール輸送層の間にホール輸送層よりイオン化ポテンシャルが小さくホールを注入しやすい、阪大と共同研究のスターバーストアミン(m−MTDATA)を挿入し、ITOから有機層へのホール注入障壁が低くなることで駆動電圧を低くしている(2)。陰極に低仕事関数のLi:Al電極を採用し、さらなる低駆動電圧を実現している。単体では、4Vで300cd/m²の輝度が得られ、最高輝度は100,000cd/m²を超えている。
(参考:家庭用TVなど屋内使用ディスプレイに必要な輝度は350-500cd/m²とされる。)

有機ELは、有機溶剤を使用する通常のフォトリソグラフィー技術が使えないので、パターニングに工夫を要するが、パイオニアは陽極をパターニングした基板上に、断面が逆テーパー形状の陰極隔壁を設け、この陰極隔壁をシャドーマスクとして有機薄膜、陰極を真空蒸着法で形成することで、自動的に陰極をパターニングする技術を開発した(3)

パイオニアは、256×64画素のパッシブマトリックス構造緑色モノクロフラットパネルディスプレイを開発し、これを搭載した車載用FM文字多重レシーバー「GD-F1」(図2)を発売した(4) (5)。輝度100cd/m²と明るく、広視野角で、「VICS」やラジオの文字情報を、車内で、優れた視認性で見ることが出来る。


図1 有機EL素子の断面構造

図2 車載用FM文字多重レシーバー「GD-F1」(パイオニア提供)

【参考文献】
(1) C.W. Tang and S.A. VanSlyke, “Organic electroluminescent diodes”, Appl. Phys. Lett., Vol. 51,pp. 913-915, (1987)
(2) Y. Shirota, Y. Kuwabara. H. Inada, T. Wakimoto, H. Nakada, Y. Yonemoto, S. Kawami, and K. Imai, “Multilayered organic electroluminescent device using a novel starburst molecule, 4, 4’, 4’ ? tris (3-methylphenylphenylamino) triphenylamine, as a hole transport material”, Appl. Phys. Lett. , Vol. 65, pp. 807-809, (1994)
(3) 仲田 仁、“有機EL素子が実用化に至るまで”、応用物理、vol. 69, pp.1113-1116, (2000)
(4) 仲田 仁、越智 英夫、川見 伸、永山 健一、大畑 浩、村山 竜史、奥田 義行、“有機ELドットマトリクスディスプレイ”、テレビジョン学会年次大会、pp. 49-50, (1996)
(5) パイオニア(株)報道資料、“次世代ディスプレイ「有機EL」業界で初めての製品化 車載用FM文字多重レシーバー「GD-F1」新発売”、(1997年9月30日)


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