1972〜1973年
電卓用CMOS LSIの製品化(シャープ、東芝)

〜集積回路〜



それまで電卓はPMOS LSIで構成されていたが、電池で長時間使える電卓を実現するには低消費電力のCMOS LSIの採用が必要であった。1971年からシャープと東芝で共同開発が始まり、東芝が製造した1チップCMOS LSIをLED表示装置と組み合わせて、シャープが1972年7月に電池3本で15時間使用出来る電卓エルシーミニを発売(1)、続いて、低消費電力多桁液晶表示装置と組み合わせて、1973年に電池1本で100時間使える電卓エルシーメイト・EL-805を発売(2)。それ以降、液晶表示装置とCMOS LSIの組み合わせが電卓の主流となり、ポケット電卓からカード電卓へと進化していった。

1チップCMOS LSI化にはいくかの課題があった。1チップに電卓の演算機能を集積するとチップサイズが大きくなること、PMOSより製造コストが高いこと等を克服する必要があった。東芝は1969年にC2MOS(Clocked CMOS)と呼ばれる回路技術を開発しており、この技術を使えば素子数が少なく、且つパターン(絵柄)も小さなLSIが設計できた。さらに、通常のCMOSよりも消費電力が小さく動作速度も速いという利点を持っていたのでC2MOS回路を使ってシャープ向け1チップCMOS LSIを開発した。それでも1チップに全ての電卓演算を集積したLSIのチップサイズは、1辺が約6mmと当時としては非常に大きく、量産開始時には歩留り向上に苦労した。その後、チップサイズの縮小と製造技術の向上等によって量産が軌道に乗り、以降、他のLSIのCMOS化も加速されていった。

図1 シャープの液晶電卓 EL-8053) 図2 東芝の1チップ電卓CMOS LSI
(提供:東芝)


【参考文献】
(1)昭和47年7月20日付、日本経済新聞、“東芝、新LSIを量産化 ― 消費電力百分の一、当面、月産二万個めざす”、
(2) Yasoji Suzuki et al., “Clocked CMOS Calculator Circuitry”, 1973 International Solid-State Circuits Conference (ISSCC ‘73), IEEE, pp.58-59, 14 Feb. 1973,
(3)東芝半導体事業35年史 (株)東芝半導体事業本部 1991


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【最終変更バージョン】
rev.002 2010/10/23