1984年
EPROM内蔵マイコン開発 (日立)

〜集積回路〜



1980年代前半、半導体の集積度向上に伴い、CPU、メモリ、周辺機能の全てを内蔵するシングルチップマイコンが広く普及していった。しかし、シングルチップマイコンが内蔵していたのはMASK ROMメモリで、コストや信頼性に優れていたが、製造の工程途中でプログラムする必要があった。そのため、ソフトウエアのバグ修正や量産化までに時間と費用を要するという課題があった。

この課題は、搭載メモリをフィールドプログラマブルなEPROMメモリに切り替えることで一気に解決されるが、当時、EPROM内蔵マイコンはコストや信頼性に懸念があったので量産用途には実用化されていなかった。EPROM内蔵マイコンは開発用途に限定使用され、量産段階ではMASK ROM内蔵マイコンに移行するのが業界の常識であった。 

1984年、日立からEPROM内蔵マイコンの第一号製品63701Vが市場に投入された。日立はこのEPROM内蔵マイコンを、顧客のソフト開発から量産までに要する時間(Turn Around Time)をZEROにするということからZTATマイコンと呼んだ。EPROMメモリ内蔵マイコンの課題となっていたコストと信頼性の対策が進められた結果の量産であった。EPROM内蔵マイコンは当初民生用途を中心に使用されたが、やがて信頼性に最も厳しい市場である自動車エンジン制御用途も全てEPROM内蔵マイコンに切り替わるに至り、信頼性とコストの両立が実現できた証となった。

この製品は開発から量産への時間(TAT)短縮という普遍的で本質的なニーズを捉えていたので、市場インパクトが大きかった。EPROM内蔵マイコンは日立はじめNECなどシングルチップマイコン業界各社へ急速に広がった。さらにその後、搭載メモリがソフトウエアの書き込みが可能はEPROMから、書き換えも可能なフラッシュメモリへと更に柔軟性を高める技術へと進展していった。現在のシングルチップマイコンのほとんど全てがこのフラッシュメモリ内蔵のマイコンとなっている。

図 EPROM内蔵マイコンHD63701X0とHD63701V0のチップ写真1)


【参考文献】
1) 佐藤恒夫ほか ZTATマイクロコンピュータ 日立評論 Vol.67 No.8 PP 21-26 (1985年8月)


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【最終変更バージョン】
rev.001 2010/10/16