エピ技術採用でマイクロTV誕生

 
ソニーが製品化した5インチ型マイクロテレビ「TV5-303」

 ゲルマニウムからシリコンへの転換が急速に進んだ背景には、「エピタキシャル」と「プレーナー」という2つのプロセス技術が牽引車的な役割を果たした。いずれもシリコン時代黎明期の1960年に米国で開発された。
このうちエピタキシャル技術は、「・・・・の上に(エピ)」と「配列(タキシー)」の意で、字義通り単結晶シリコン基板上にそれと同じ結晶軸を持った高純度の単結晶薄膜を成長させる技術である。このような手段を講じることにより、デバイス自体の動作領域は主として薄膜層に形成され、素子特性の飛躍的向上が図られた。
ソニーの塚本哲男氏は、この技術がベル電話研究所で開発され、通信用トランジスタに応用されていることを知ると、念願のトランジスタテレビの性能向上に役立つのではないかと直感した。
 当時、ソニーでは自社製装置で引き上げたシリコン結晶を用いて高周波高出力トランジスタを開発、60年に8インチ型トランジスタテレビ(もちろん世界初)を製品化している。しかし、このテレビは、画面がぼける、暗い、ロッドアンテナだけでは感度が悪い、おまけに故障が多いなど、一般の評判ももうひとつだった。
こんな問題の背景にシリコントランジスタの問題があることを知っていた塚本氏は、同社の「マイクロテレビ作戦」の先頭に立ってエピタキシャル技術の導入を決意、極秘裏に開発を進めた。幸い着手2ヵ月後の8月には基本手法を確立、10月にはエピタキシャルウエハーを用いた高周波高出力トランジスタを完成している。素子としての完成度の高さに本家のベル研側の研究者が驚いたという話は有名だ。
 写真は同トランジスタを採用した5インチ型マイクロテレビ「TV5-303」である。   (ソニー提供)

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