米誌に触発された電試グループ

 
写真A わが国初のICを開発した電気試験所グループ (左から:伝田、垂井、井上ルミ子、鳴神長昭の各氏)

 
写真B 試作ICの外観

 
写真C 昭和36(1961)年電気四学会連合大会に発表した論文 (拡大可能)

 海の向こうの新成果に刺激されて日本で初めてICの試作に取り組んだのは、旧工業技術院傘下にあった電気試験所のグループである。当時、電子部トランジスタ研究室主任(後に東京農工大学教授)だった垂井康夫氏が事の重大性に着目し、研究員の伝田精一氏らと試作した。
 日本に米国の具体的な情報が入ってきたのは1960年初めのこと。なかでも米誌「Semiconductor Product」の1960年2月号に載ったWestinghouse(WH)社の成果には強い共感を覚え、「これこそが将来の半導体の主流技術になる。われわれも、ぜひ取り組もう」と垂井氏が提案した。当時、WH社ではTI、Fairchild両社とは別個に集積化部品の開発に成功し、それを「Molectronics」と呼んでいた。
 試作は米国からのわずかの情報を手がかりに推定、推測を重ねながら進められた。しかし、「目的の機能を得るためには、どんな方法を使ってもいいのではないか」(伝田氏)と考え、基板材料にゲルマニウム、構成回路にはマルチバイブレーターを選んだ。
 こうして60年12月に完成した国産初のICはゲルマニウムのペレット3個を約1cm角の樹脂容器に平行に配列したもので、見方次第ではマルチチップ構造のハイブリッドICともいえる。このうち2個のペレットには、それぞれトランジスタ(合金拡散型)とコンデンサー各1個、残り1個のペレットには4個の抵抗が集積され、ペレット間ははんだ付けにより結線された。
 写真Aはわが国初のICを開発した電気試験所グループ(左から:伝田、垂井、井上ルミ子、鳴神長昭の各氏)、写真Bは試作ICの外観、写真Cは昭和36(1961)年電気四学会連合大会に発表した論文。 (垂井康夫氏提供)

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