不良解析が生んだノーベル賞


ソニー製エサキダイオード

 江崎氏がノーベル物理学賞を受賞したトンネルダイオード(エサキダイオード)は、ラジオ用トランジスタの不良解析のなかから生まれた。
 1950年代半ば、ソニーではゲルマニウム結晶に入れる不純物(リン)の濃度を高めたトランジスタを開発したが、不良品が大量に発生する問題に直面した。不純物濃度が高いほど素子の増幅率が高くなる。結晶の性質を壊さないで、どこまで不純物濃度を上げられるか。その仕事を任されたのが、神戸工業から移籍したばかりの江崎氏だった。
 「57年7月頃の暑い日だった」と氏は振り返る。PN接合ダイオードを−80°Cの槽に入れて調べているうちに、かける電圧を上げるほど、流れる電流が減る「負性抵抗」を発見した。
 この現象こそが量子力学で予測されたトンネル効果であり、エサキダイオードの嚆矢をなすものだった。氏は、この現象を用いれば電流のスイッチングや増幅が可能な高速素子ができると考えた。
 江崎氏はこの成果を57年10月の日本物理学会で発表したが、それほど注目されなかった。注目を集めたのは、58年にブリュッセルで開かれた国際固体物理会議のことだ。トランジスタの発明者、W.Shockleyが基調講演で江崎氏の名を挙げて、その成果について言及した。江崎氏の講演は超満員になり、一挙に世界の研究者から一目置かれることになった。
 写真はソニー製エサキダイオード。 (江崎玲於奈氏提供)

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