「ロケット・ササキ」の電卓戦略

   
写真A(左) シャープ元副社長の佐々木正氏   写真B(右) 世界初の液晶表示電卓「EL-805」

 IC化電卓の最大の貢献者は誰かといえば、文句なくシャープ元副社長の佐々木正氏(写真A)である。
 1964年に神戸工業から同社に移籍した氏は、数千個のトランジスタやダイオードが使われている電卓を見て、「これでは小型化できないしコストも下がらない。電卓を事務用から個人用にするにはIC化が欠かせない」と考えた。
 だが、どの半導体メーカーにICの供給を持ちかけても、ICは大型計算機の部品という先入観があって話に乗ってこない。ようやく「モレクトロン」を製品化した三菱電機が応じ、66年3月にバイポーラ型IC28個を使用した、世界初のIC化電卓「CS-31A」を発表した。
 MOS型化でも、国産勢は米国でさえもうまくできていないことを理由に及び腰。メーカー側と一体になって不安定性の問題に決着をつけた上で、ようやくNECと日立から供給を受け、67年12月に日立製チップ56個を使った「CS-16A」を製品化した。
 LSI化でも内外の半導体メーカーを説得してLSI 4個の「QT-8D」、2個の「EL-811」を相次いで開発。73年6月には遂にCMOS 1個の液晶表示電卓「EL-805」(写真B)を製品化し、「電卓市場の革命的成果」と賞賛された。セールスポイントの「液晶、100時間、薄型電卓」は今も語り草になっている。
 私は2007年春、92歳を迎える氏の訪問を受け、「100歳まで研究生活を続ける」という話を聞いた。かつて米国技術者から「ロケット・ササキ」と呼ばれたイノベーター魂に、今なお衰えはない。   (シャープ提供)

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