「オール国産」にこだわった単結晶づくり


写真A 試作した単結晶引上装置


写真B  写真Aの装置を用いて作成されたゲルマニウム単結晶

 電気通信研究所のグループは国産第1号のトランジスタ試作に成功したものの、もうひとつ気が晴れない。使ったゲルマニウムが「国産」でなかったからだ。「次は全部国産でやろう」が合言葉になって高純度ゲルマニウムの単結晶づくりが始まった。
 単結晶を作るとなると、単結晶引上装置が必要になる。前出の岩瀬氏らは山梨大学の研究室を訪問するなどして、種結晶から人工水晶を成長させる方法や、人工ルビーや人工サファイアの単結晶を成長させるベルヌーイ法を勉強した。
 いざ引上装置をつくる際に問題になったのは、米国では窒素とかアルゴンのような不活性ガスが使われているが日本では当時調達不能だった。致し方なく真空槽の中で引き上げる方法を採ったが、高真空中で1000℃程度の高温にすると電気炉から不純物ガスの発生がまぬがれない。そこで純アルミナ製の炉体の内側にカンタル線を巻くなどの工夫を施してようやく完成した。写真Aは同装置の外観、写真Bはこれを用いて作成されたゲルマニウム単結晶である。
 この引上装置は当時としては画期的なもので、特許化も図られた。ところが試作を依頼した装置メーカーが知らないうちに、ちゃっかり外販していた。「ソニーの品川のトランジスタ工場の開所式に出かけたら、招待者に配られたパンフレットの中にそっくりの装置があって驚いた」と岩瀬氏は後年語っている。 (岩瀬新午氏提供)

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