2010年代
産業用無人ヘリコプター(ドローン)の実用化
(ヤマハ発動機、他)
〜応用製品〜



無人ヘリコプター(ドローン)は、ホバリング飛行や垂直離着陸の特徴を有し利便性に優れることから、農業、空撮をはじめ、測量、点検、調査、警備、物流などのさまざまな産業分野での応用が期待されている。1990年代になって、半導体技術、MEMS技術の進歩により、小形、低価格のMEMSジャイロセンサー、加速度センサー、高解像度半導体イメージセンサー、高演算能力CPU が開発され、GPS衛星も1995年から本格運用が開始され、これらを利用する自律航行ドローンの開発が活発になった1),2)。ドローンには、シングルローター型とマルチローター(マルチコプター)型がある。

1987年に、98cc(12馬力)のガソリンエンジン駆動で、ペイロード(積載重量)20kgの、世界初の産業用無人シングルローターヘリコプター「R-50」(型式L09)を商品化したヤマハ発動機は、2001年に世界初ともいえる、目視外でプログラムにもとづいて自動航行する2サイクル246ccエンジン無人ヘリコプター「RMAX G0」を発売した3)。2002年アメリカ航空宇宙協会の調査では、世界ドローンの65%が日本製で、主として農薬散布に使われていた。ヤマハ発動機は、4サイクル390ccエンジンを搭載し、ペイロードを35kgに増量した「FAZAR」を2013年に発売した4)。これを発展させた2016年発売の「FAZER R G2」では、衛星通信機能を搭載し、1700km離れた場所からの遠隔操作に成功している5)。無人ヘリコプターは、農業分野で活躍している他に、離島、山間僻地への荷物運搬、人が立ち入れない危険地域の観測、計測など、さまざまな用途で活用されている。

世界初の市販マルチコプターは、1989年に大阪のジャイロセンサーメーカー大手キーエンスが市販した、ホビー用ラジコンへり「ジャイロソーサーE-170」と言われている。2010年Parrot(仏)が、ホビー用ドローンの元祖といわれる、4ロータ―ヘリコプター「AR Drone」を発売した。小型カメラを内蔵し、無料アプリをiPhone、iPadにダウンロードしてWi-Fi接続で、搭載カメラからの映像を見ながら、ドローンに搭乗している者の視点(FPV:一人称視点) で操縦できる画期的なものであった。「AR Drone」の登場は衝撃で「ドローン」の呼称を世界に知らしめた。 2014年にDJI(大疆創新科技有限公司)が発売したドローン「PHANTOM」はアクションカメラを搭載できるジンバルとの組み合わせが好評で、空撮などに使われ、カメラドローンと呼ばれ、ドローンの利用が一気に世界に広まった。マルチコプターはホビー用途が多いが、2019年にヤマハ発動機が発売した産業用ドローン「YMR-08」(型式L80)のように、農業(農薬散布、生育観察)、土木建築(構造物点検、測量)など産業用としても、活発に開発されている6)

ドローンには、ローター、カメラ操作などサーボ系に数個から数十個の電動モーターが使われ、これらを駆動するパワートランジスタとモーター制御コントローラーICが組み込まれている。ドローンの自己位置推定には、GPS衛星などGNSS(Global Navigation Satellite System)からの位置情報、さらには、RTK(Real Time Kinematic)−GNSSが使われる。非GPS環境下で自己位置を知るための、前方、後方、下方、両側面方向に設置して複数のカメラの画像をもとにした、画像処理ビジュアルSLAM (Simultaneous Localization and Mapping)によるナビゲーションが使われる。ドローンの姿勢推定は、3軸ジャイロセンサー、3軸加速度センサー、地磁気センサー、気圧センサーを組み合わせた慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)あるいは、姿勢方位基準装置(AHRS: Attitude heading Reference System)を用いる。衝突回避のための障害物検知も重要で、上記カメラ画像の処理による物体識別のほかに、赤外線センサー、超音波センサーによる測距が採用されている。このようにドローンは、「飛行しているセンサー」と呼ばれるほど多種多様なセンサーを多数搭載し、GPS受信や、基地局との交信などの無線通信機能を備え、かつ、モーター制御、画像処理などのCPUが搭載されて、さながら「空飛ぶプロセッシング」と呼ばれる様相を呈している


図1 産業用無人ヘリコプター「FAZAR R」(型式L31)
(3,665o(L)×1,078mm(H)×770mm(W)、メインローター径:3,115mm)
(原動機:水冷・水平対向・OHV2気筒ガソリンエンジン・390cc)
提供:ヤマハ発動機株式会社

 


図2 産業用マルチローター「YMR-08」(型式L80)
(1,923mm(L)×2,181mm(W)×669mm(H)、ローター枚数:8,ローター径:26inch(66mm))
(バッテリー定格容量:852 Wh、モータートルク:(最大)2.4Nm/4,000rpm、(連続出力)1.2Nm/2,800rpm)
提供:ヤマハ発動機株式会社

 


【参考文献】

[1] 野波 健蔵:“小型無人航空機(ドローン)における最新の技術動向と展望”, 計測と制御, vol.59, no.7, pp. 437-443, (2020)
[2] 久保 大介:“無人航空機システム(ドローン)の歴史と技術展望”, 計測と制御, vol.56, no.1, pp.12-16, (2017)
[3] 柴田 英貴:“自律無人ヘリコプターRMAX-G1の開発”, 日本航空宇宙学会誌, vol.54, no. 628, pp.140-144, (2006-5)
[4] 吉原 正典, 林 隼之:“産業用無人ヘリコプタ”FAZER“の紹介”, Yamaha Motor Technical Review, no.49, pp. 11-16, (2013-12)
[5] 森本 琢也:“衛星通信によるFAZER R G2 遠距離自動飛行運用紹介”, Yamaha Motor Technical Review, no.53, pp. 9-13, (2017-12)
[6] 吉原 正典, 松村 大佑, 米原 慧紀, 大西 慎太郎, 春田 祐吾, 水野 健太, 西宮 隆, 神田 大:”産業用ドローンYMR-08”, Yamaha Motor Technical Review, no. 55, pp. 44-55, (2019-12)


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 rev.001 2022/10/17