1979年
HEMT(高移動度トランジスタ)の発明(富士通)

〜個別半導体・他〜


1978年に米ベル研のR.Dingle等が変調ドープ超格子構造(Siをドープしたn型AlGaAs極薄層と高純度GaAs極薄層を交互に多重積層したもの)で、GaAs層への電子蓄積に成功した。富士通の三村はこの超格子の一接合面だけを用いて電界効果トランジスタにすることを着想しHEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランシスタ)と命名した。急峻な組成変化のヘテロ接合実現に必要な、オートドーピングのおこり難い分子線結晶成長技術(MBE)を研究していた富士通研・冷水グループと協力して動作に成功する。1979年12月に特許出願とプレスリリース、1980年6月のDRCの論文発表につなげた。論文発表の席で(仏)Thomson 社も同じデバイスの動作に成功しており発明はタッチの差だったことが解かった。

HEMTは77Kで約50,000cm2/Vsという高い電子移動度が実現するので、高周波、高速素子として注目された。
当初通産省大型プロジェクト『高速科学技術計算用演算素子』に取り上げられ、10年計画でスパーコンピュタ向演算素子の開発をめざした。1983年には1K SRAM、1986年には16KSRAM、1988年には1100ゲートロジックLSIが開発された。しかし、十分な性能を出すには液体窒素温度動作が必要で、相補型HEMTの性能も上がらないことなどから論理素子としてよりは、マイクロ波、ミリ波通信用素子として発展した。

HMMT結晶は半絶縁性GaAs基板上に高純度GaAs層とSiを高濃度にドープしたAlGaAs層を結晶成長する。平坦なヘテロ接合界面を確保し、AlGaAs層成長時にAlやドーパントのSiがGaAs層に拡散してGaAs層の純度を落とさないことが重要である。このため、結晶成長温度が低く、成長の精密制御に優れたMBE(分子線エピ成長)、MOVPEがつかわれる。

HEMTの出現で、ヘテロ接合関連技術、MBE技術、MOVPE技術などの重要性が認識され、これらの研究開発を活性化した功績も大きい。
HEMTのバンド構造(2) HEMTの構造概略(2)

【参考文献】
1.T. Mimura et. Al. “A new field-effect transistor with selectively doped GaAS/n-AlGaAs
  heterojunction” Japanese J. Appl. Phys. Vol. 19, L225, (1980)
2.“高電子移動度トランジスタ(HEMT)の研究開発、電子情報通信学会電気のデシタル
  博物館
  http://dbnst.nii.ac.jp/junior/detail/317


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【最終変更バージョン】
rev.003 2013/5/9