1960年代前半
シリコントランジスタ製造にエピタキシャル技術を採用

〜プロセス技術〜



1960年代になり日本でもプレーナ型のシリコントランジスタが作られるようになった。トランジスタは、エミッタ、ベース、コレクタと呼ばれる3つの基本構成要素から成り立っているが、シリコントランジスタでは基板側にコレクタが形成され、基板の裏側からコレクタ電流が取り出される。コレクタ電流を効率よく取り出すためには基板の抵抗が低い方が良く、半導体中の導電率を変える元素(ドーパント。日本語では不純物と呼ばれるが不純な物というわけではない)を多く入れて低抵抗化した基板を使う。n型の高濃度不純物を入れた基板をn+基板と呼び、p型の高濃度不純物を入れた基板をp+基板と呼ぶ。n+やp+の基板に直接トランジスタを作ることはできないので、そのような高濃度基板の表側に低濃度のエピタキシャル層を成長させて、そこにトランジスタを作る。エピタキシャル層とは基板の単結晶と連続した単結晶層であり、基板とは異なる不純物濃度の層を作ることができるのが特長である。

日本メーカは基板となるシリコンウェーハも内製したが、その上に付けるエピタキシャル層の形成も自社内で行った。シリコンのエピタキシャル成長には気相成長法が使われた。気相成長法とは、高温に加熱したシリコン基板上に反応ガスを流して基板表面上で化学反応を起こさせることによって、単結晶を基板と連続的に成長させる方法である。典型的には、1100〜1200℃程度で4塩化珪素(SiCl4)を水素で還元してシリコン基板上に堆積させる。成長温度が低くすぎると、きれいな単結晶にならなかったり、逆に成長温度が高すぎると、基板から高濃度の不純物が気化してエピタキシャル層の抵抗が下がったり(オートドーピングと呼ばれる現象)するなどの問題があり、温度制御や反応ガスの流量制御を工夫して均一で結晶品質の良いエピタキシャル層を形成するべく、各社努力した。エピタキシャル成長装置についても、真空管やコンデンサなどを組み合わせて各社で内製した。この当時は学会などでエピタキシャル技術の発表が行われていた時代であった。1) 2)

1960年代後半にはICの生産が始まった。ICでは基板に(ICのパターンに合わせて)局所的に低抵抗領域を作る必要があり、マスクを使って基板に選択的にn+領域を作ってからその上にエピタキシャル層を形成する。各社ともICパターンは社外秘であり、エピタキシャル工程の内製は続いた。


【参考文献】
1) 南日康夫、”高真空でのシリコンエピタキシャル成長”, 日本物理学会春の分科会講演予稿集1964年(2), 116, 1964-03-31
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002041602
2) 小野祐一他、”モノシラン熱分解法による低温エピタキシャル成長”, 日本物理学会年会講演予稿集 24(5),26,1969-03-30
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002276474


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【最終変更バージョン】
rev.000 2010/10/13