大発明に冷淡だった新聞報道

 
ささやかな新聞報道(ニューヨーク・タイムズ紙 拡大可能)

 トランジスタの出現は、今でこそ「戦後最大の技術革新」、いや「20世紀最大の発明」などと評価されているが、発明当時のジャーナリズムの反応は、きわめて冷淡だった。
 米国を代表する「ニューヨーク・タイムズ」紙は、公式発表翌日の1948年7月1日付でその内容を伝えているが、その記事たるや、写真に示すように、ずっと後ろの方の紙面(46面)のラジオ欄の脇に、見出しのないベタ記事扱いで40行足らず紹介しているに過ぎない。内容も「このデバイスは従来、真空管が使われていた無線の分野でいくつかの応用を開くであろう」と至極あっさりしたものになっている。
 日本の新聞はもっとひどい。新田尚道著『半導体物語』(非売品)によれば、自らが在籍していた「朝日新聞」を1948年から1949年にわたってつぶさにチェックしているが、「トランジスタ発明」の記事は遂に見つけられなかった。結局、半導体をキーワードにして検索して最初に出てきた記事は「輸出のホープ トランジスター」と見出しの付いた1953年5月4日付の記事だった。科学面の記事らしく「真空ならぬ“真空管”」「石炭ガスの廃液からゲルマニウム抽出に成功」などと説明されている。
 戦火の余燼消えやらぬ中で、このちっぽけな石は記者の目にとまらなかったのか。

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