1969年
世界初のCMOS LSI適用商品

~業界動向~


1960年に発明されたMOSトランジスタ[1]は直ぐにIC化された。MOSトランジスタにはPチャネル型(PMOS)とNチャネル型(NMOS)とがあるが、1963年に両者を組み合わせたCMOSが発明された[2]。60年代からのIC化は既に広く使われていたバイポーラトランジスタによって始まったが、MOSトランジスタによる IC化もこれに並行して進められ、1968年にはCMOS ICがRCAによって発明された[3]。このCMOS ICは低消費電力であり、米空軍用の一部のコンピュータに適用された。ただ当時のCMOS ICは低速であったために、1970年代後半の高速CMOSが開発[4]されるまで電子機器への適用は限定的であった。このためMOS ICの主潮流は1960年代のPMOS IC、70年代のNMOS IC、80年代にからCMOS ICへと移行していった。

とはいえ、この低消費電力の特長を活かして商品市場にCMOS ICを適用したのは個人用の民生電子機器であった。その最初が1969年に発売されたセイコーのクォーツ腕時計アストロンである[5]。セイコーはIntersil社と共同開発した低消費電力のCMOS ICを1970年代に自社生産した[6]。電子腕時計の生産量は1970年代後半にはスイスの腕時計を上回るようになった。続いて1972年、普及したLSI電卓にCMOS ワンチップLSIが適用され[7]、電卓市場に拡がっていった。高速コンピューティングの低消費電力化の要請による80年代の本格的なCMOS LSI化には、個人用民生用電子機器分野でのニーズが先行していた動向は注目に値する。


(参考文献)

  1. 日本半導体歴史館 個別半導体1960年 MOSFET発明(BTL)
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi337.htm
  2. 日本半導体歴史館 個別半導体 1963年 CMOS発明(Fairchild)
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi307.htm
  3. 日本半導体歴史館 集積回路 1968年 CMOS汎用ロジックICの登場 (米国 RCA)
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi747.htm
  4. 日本半導体歴史館 集積回路 1978年 二重ウエル CMOS高速SRAMの開発 (日立)
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi727.htm
  5. 日本半導体歴史館 応用製品 1969年 世界初の電子式腕時計(アストロン)の発表(セイコー)
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi211.html
  6. 日本半導体歴史館 集積回路 1970年代前半 時計用CMOS LSIの発展(セイコーエプソン)
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi757.htm
  7. 日本半導体歴史館 集積回路1972~1973年 電卓用CMOS LSIの製品化(シャープ、東芝)
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi707.htm


Ver.001: 2026/2/1