1990年代後半
露光光源の短波長化(i 線からエキシマレーザー光へ)
〜プロセス技術〜


投影光学系を通してウェハ上に転写されるパターンの最小解像線幅は,Reyleighの式と呼ばれる
R=k1×λ/NA (R:最小解像線幅,k1:比例定数,λ:露光波長,NA:投影レンズ開口数)
で表されることがよく知られている。

より微細なパターンを形成する技術的な方向は,プロセスで決まるk1の低減,露光波長λの短波長化,レンズ開口数NAの拡大である。

このうちの露光波長は,縮小投影露光装置,いわゆるステッパが1980年代に登場した当時は,超高圧水銀ランプのスペクトルのうち,可視光域のg線(波長436nm)が用いられた。これにより,ウェハ上には0.8μm幅程度のパターンの形成が可能になり,4M-DRAMの生産に適用された。

続いて1990年代初頭には,同じ光源である超高圧水銀ランプのスペクトルのうち紫外域の
i 線(波長365nm)が用いられた。紫外光に対応できる透過率の高い投影レンズの硝材開発と合わせて実用化された。短波長化により最小解像線幅は0.5μmを下回り,16M-DRAMの生産に用いられた。その後もレンズの大NA化,レジスト材料の大幅な進化により,最小線幅0.35μmを達成できるようになった。またi線ステッパは,これに続く露光装置に比べてランニングコストが低いため,より微細なデバイスのLSIでも,その工程中で緩い線幅しか必要でない工程には適用することが可能で,これに対応するため高スループット,大露光面積化等の進化を続けている。

更なる微細加工追及のため,次の世代の露光用光源として,1990年代後半にはKrFエキシマレーザー(波長248nm)が実用化された。ステッパ処理能力を維持できるレーザー出力,色収差低減のための波長分散狭帯化等をクリアしてステッパに搭載され,0.25μmのパターンが解像可能となった。

KrFレーザーへの露光波長の変更は,光源,レンズの他,レジスト材料の大幅な変更も必要とした。レーザー光の強度は従来のi線に比べ低く,そのままではステッパの能力が大幅に低下してしまう。従来のレジスト材料の感光機構とは異なり,露光により酸を発生させ,この酸の触媒反応を利用した高感度な化学増幅系レジストが実用化されこの問題は解決された。ただし雰囲気中のわずかな塩基性物質により感度が変動してしまうため,装置およびクリーンルーム中のケミカルフィルタリングの重要性が高まった。他にも単波長化による光エネルギーの増加により,ステッパ光学系部品表面への硫安・有機物の堆積も問題となり,装置内のクリーン化はこちらの点でも重要となった。

KrFステッパはその後,露光波長はそのままで,マスクとウェハを同期して移動させつつパターン転写する,いわゆるスキャナーへと露光方式を変えていった。転写領域をスリット状に狭くすることにより,投影レンズ開口数を大きく取れ,ステッパでは0.65程度であったNAは0.8を超えるまで引き上げられ,0.1μm程度のパターンを解像できるようになった。

一方、設計原版であるマスクのパターン寸法の微細化も進んでいった。縮小投影露光方式によってマスクの寸法精度が緩和されたものの、1990年代に入って更なる微細化が進むにつれてマスクそのものの描画精度要求が厳しくなってきた。そのため電子ビームでマスク描画が行われるようになり、米国ETEC社の電子ビーム描画装置が準業界標準機となって行ったが、その後ニューフレアテクノロジーズ(当時は東芝機械)や日本電子などの日本メーカが躍進し、最終的には市場でETECを凌駕することとなる。

【参考文献】


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【最終変更バージョン】
rev.002 2010/10/26